大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 昭和40年(レ)47号 判決

控訴人 赤穂土地合資会社

右代表者代表役員 田淵新一郎

右訴訟代理人弁護士 松井弘行

被控訴人 産経不動産株式会社

右代表者代表取締役 寺井増太郎

右訴訟代理人弁護士 高坂安太郎

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、合式の呼出をうけながら本件口頭弁論期日に出頭しないが、その陳述したとみなされる控訴状によれば「原判決を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする」との判決を求め、被控訴代理人は主文同旨の判決を求めた。当事者双方の事実上の主張並びに証拠関係は原判決事実摘示と同一であるからここにこれを引用する。

理由

一、≪証拠省略≫を綜合すると次の事実を認めることができる。

赤穂市三崎字三崎山一六一番地宅地四二三坪(以下本件土地と称す)外三筆はもと訴外不破千代らの先代不破福造の所有であったが昭和一〇年三月控訴人のため取得時効が完成した(但し、控訴人はその旨の登記手続を経ていなかった)。右不破福造は同二三年死亡し同三〇年七月二〇日右福造の相続人たる不破千代らと被控訴人が売買予約をし同年八月一〇日右不破千代らの相続による本件土地の所有権取得登記するとともに同日、被控訴人のため売買予約による仮登記手続がなされ、同月一一日被控訴人は右売買予約を完結した。

同年一〇月二二日控訴人を申請人、右不破千代ら並びに被控訴人を被申請人とする神戸地方裁判所龍野支部同年(ヨ)第五一号不動産仮処分事件として控訴人は本件土地につき処分禁止の仮処分命令を得、同月二五日その命令の執行として右不破千代ら名義で且つ被控訴人のための前記仮登記手続をなした登記簿に右命令の登記がなされた。

同三一年三月一五日被控訴人は訴外黒松小源太に対し同年四月末日までに右仮処分を排除させた上、本件土地の所有権移転登記をなし、もし同年四月末日までに右履行できぬときは手付金倍額を支払う旨の特約をつけて売却し、右訴外黒松より手付金一〇万円を受取った。

そして、被控訴人は同年三月二八日頃及び同年四月二六日の二回にわたり控訴人に対し右売買の事実を告げ右仮処分執行の解放を求めたが控訴人はこれに応じなかった。そこで同年六月三〇日被控訴人は右売買契約を解除され訴外黒松にその頃右手付金の倍額金二〇万円を支払った。その後控訴人は右仮処分の本案訴訟事件において不破千代らに対しては所有権移転登記手続を、被控訴人に対しては右仮登記の抹消登記手続を請求したところ不破千代らとの関係では控訴人の前記時効による取得を認められて勝訴したが、被控訴人との関係では右時効による所有権の取得につき登記がないので被控訴人に対抗できぬとして敗訴し右判決は確定した。

二、以上の事実によると控訴人は被控訴人に対し本件土地につき理由のない処分禁止の仮処分をなしその後、右黒松間の本件土地につき特約つきの売買契約がなされたことを被控訴人より告げられ、しかも右仮処分を維持することにより被控訴人が手付倍戻しをしなければならぬ事情を知りながらなお本件土地につき仮処分を維持したのは控訴人の故意または過失にもとづく不法な行為と認めることができる。

そうすると控訴人は被控訴人が訴外黒松に手付倍戻金として支払った金一〇万円及びこれに対する右不法な仮処分を維持した後である昭和三一年六月三〇日より完済まで年五分の割合の損害金の支払をなす義務があり、これと同旨の原判決は正当であって本件控訴は理由がない。よって、民事訴訟法第三八四条第二項、第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 松本保三 裁判官 山本矩夫 裁判官林泰民は転任のため署名捺印することができない。裁判長裁判官 松本保三)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例